馬刺しの勝負は、解凍ではなく終点の温度にあります。
冷凍の馬肉をおいしく食べる方法はたくさん語られますが、議論の芯はもっと単純です。冷蔵でゆっくり戻すのは土台として強いです。ただし、それだけでは味の天井に届きません。最後にどの温度で切って、どの厚みで口に入れるか。そこが決まると、赤身の甘みも、霜降りの脂の香りも、たてがみのコクも、同じ肉とは思えないほど立ち上がります。
ここで押さえたい合図は温度の頂点です。温度の頂点とは、赤身は香りが締まり、霜降りとたてがみは脂がほどけ始める、その境目のことです。冷たすぎると旨みが閉じ、ぬるいと脂が重く感じやすくなります。だから全部を同じ温度で出さないほうが、結果的に全種類が一段おいしくなります。
ブロックを全部解凍して、その日にすべて食べるときの最高の仕上げ方です。
前提は冷蔵庫でのゆっくり解凍です。真空パックのまま冷蔵庫へ入れて、薄めのブロックなら約6から10時間、厚めなら約10から18時間が目安になります。完全に柔らかくするより、中心にわずかな芯が残る一歩手前で止まると、切り口がきれいで、ドリップも出にくいです。
食べる直前にやることは、終点の温度を分けることです。赤身は冷蔵庫の一番冷える場所に約30分だけ戻して、香りの輪郭を作ります。霜降りとたてがみは冷蔵庫から出して約10から15分だけ置き、脂が固さをほどく手前へ寄せます。ここで全部を同じ場所に置くと、赤身は冷えすぎたり、霜降りが固いままになったりします。温度の揃えすぎは、良さを消しやすいです。
切る直前のひと手間で、断面と舌触りが変わります。袋から出したら表面の水分をキッチンペーパーでやさしく押さえます。そのあと肉をキッチンペーパーで包み、冷凍庫へ約30から60秒だけ入れます。凍らせるのではなく、表面だけを一瞬締める感覚です。ここをやりすぎると芯が固くなり、噛み始めが乱れます。1分以内が安全です。
包丁は温度を合わせてから使います。刃をお湯で温めて、すぐに水滴を完全に拭き取ります。水滴が残ると、断面が水っぽくなりやすいです。そのまま一気に引いて切ると、特に霜降りとたてがみの脂が潰れず、甘さが軽くなります。
切り方は繊維を断つことが基本です。肉の筋の流れを見て、筋に対して直角に刃を入れます。赤身は約2から3mmが食感と香りのバランスが取りやすいです。薄すぎると軽くなり、厚すぎると噛んだあとに香りが遅れてきます。霜降りは約3から5mmが向きます。脂の甘さは、少し厚みがないと口の中でほどけません。たてがみは単体なら約3から4mmで、脂の層を感じる厚みにすると満足感が出ます。
赤身とたてがみを一緒に食べたい場合は、合わせ切りが効きます。赤身を1枚、たてがみを半分の幅で重ねて口へ入れると、赤身の香りの上に脂の甘さが乗ります。店で出る組み合わせの強さは、ここにあります。とはいえ脂が得意ではない日もあります。その日は赤身を主役にして、たてがみは少量を添える程度でも十分です。
皿は冷やしすぎないほうが有利です。常温の皿にのせると、赤身の香りが立ちやすく、霜降りの脂も固まりにくいです。真夏だけ、皿を軽く冷やすのはありですが、冷蔵庫で長時間冷やしてキンキンにすると、旨みが閉じてしまうことがあります。
つけだれは先に作って約10分置くと、味の角が取れます。赤身には醤油におろし生姜を多めが相性が良いです。甘みを少し足したいときは、甘口醤油かみりんをほんの少しだけ入れます。霜降りとたてがみは、醤油を付けすぎると脂の甘さが隠れます。塩をひとつまみだけ指でつまんで置くと、香りが前に出やすいです。にんにくは合いますが、米粒大より増やすと馬肉の良さが消えやすいです。強い香りは万能ではありません。
食感を伸ばすなら、玉ねぎスライスが効きます。辛味を抜いた玉ねぎは、赤身の甘さを持ち上げます。水にさらしすぎると香りが抜けるので、短時間で軽く辛味を落として、よく水気を切るほうが向きます。
ブロックで届いて、食べたいときに食べたい量を食べる方針の最高の仕上げ方です。
この方針で大事なのは、到着日に小分けの形を作ることです。ブロックを毎回いじる運用は、味も段取りも不安定になります。ここでいう段取りとは、食べたい日に迷わず同じ結果を出すための準備です。最初に一度だけ形を作っておくと、次からは食べる分だけを高い状態で戻せます。
到着日に狙うのは半解凍です。半解凍とは、包丁が入るが中心はわずかに固い状態のことです。完全に柔らかくしてから切ると、ドリップが出やすくなります。真空パックのまま冷蔵庫へ入れて、切れる硬さになったら取り出します。急ぐなら、袋のまま氷水に入れて硬さを作っても良いです。水に直接触れさせないことだけ守ってください。
小分けは薄切りではなく、板で作るのが正解です。赤身は厚さ約8から12mmの板にして、1回分ずつにします。霜降りは乾きにくいので約10から15mmでも良いです。たてがみは小さめの板で分けると使いやすいです。食べる量の目安は、つまみとしてなら1人で約60から100g、しっかり食べるなら約120から180gが扱いやすいです。もちろん日によって違いますが、板で持っておくと調整が簡単になります。
冷凍の仕方で差が出ます。板をキッチンペーパーで押さえて表面の水分を取り、ラップでぴったり包みます。空気が残ると冷凍焼けで香りが落ちやすいです。さらにジップ袋に入れて空気を抜き、平たくして冷凍庫へ入れます。薄く平たいほど凍るのが速く、風味が守られます。
食べたい日は、板を冷蔵庫でゆっくり戻します。板状なら約3から6時間で食べ頃に寄せやすいです。赤身は食べる前に冷蔵庫の冷える場所へ約30分戻し、香りの輪郭を作ります。霜降りとたてがみは冷蔵庫から出して約10から15分だけ置き、脂を起こします。ここでも温度を揃えないことが効きます。
切る直前の上乗せは同じですが、短くするほど成功しやすいです。表面を拭いたあと、キッチンペーパーで包んで冷凍庫へ約30から60秒だけ入れます。包丁はお湯で温めて水滴を拭き取り、スッと引いて切ります。赤身は約2から3mm、霜降りは約3から5mm、たてがみは約3から4mmが食べやすいです。合わせ切りをするなら、赤身とたてがみを一緒に口へ運ぶ幅にします。
たれの設計も、使い分けで迷いが減ります。赤身は醤油におろし生姜が中心で、甘みはほんの少しで十分です。霜降りとたてがみは、塩をひとつまみ置いてから、醤油はちょんと付ける程度が合いやすいです。にんにくは米粒大までなら香りの足し算になりますが、増やすほど馬肉の香りが隠れてしまいます。
一方で、誤解されやすい点もあります。冷たいほどおいしいという考え方は、馬刺しでは当たりにくいです。赤身は冷えすぎると甘みが閉じ、霜降りは脂が固まって香りが鈍ります。切ったまま放置も避けたいです。乾きは一気に進み、香りが短くなります。強いつけだれで覆うのも惜しいです。良い馬肉ほど、薄い味で輪郭が出ます。
赤身、霜降り、たてがみを同じ夜に並べるときの出し方で差がつきます。
赤身は香りが命なので、切ったら早めに出すほうが向きます。霜降りとたてがみは、脂がほどける温度の手前で切って、あとから出すと甘さが伸びます。皿を冷やしすぎず、赤身は生姜醤油で輪郭を作り、霜降りとたてがみは塩をひとつまみで甘さを拾う。ここまで揃うと、同じ馬刺しでも役割が分かれて、晩酌の時間が散らかりません。
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